Novels

小説概要

デジタル・デビル・ストーリー(以下、DDS)は、

作:西谷 史(にしたに あや)
絵:北爪 宏幸(きたづめ ひろゆき)
によって、1986年3月にその第一作発表された、一連のシリーズ小説である。

01ストーリー

本作の内容は、日本の創生神であるイザナギ・イザナミの転生体である中島朱実と白鷺弓子が、悪魔召喚プログラムで現世に現れた悪魔と死闘を繰り広げ、 時流に翻弄されながらも一途に愛を貫く、伝奇SF小説でありながら、ラブストーリー小説でもあるといえる。


アニメージュ文庫版の裏面に記載された、第一作「女神転生」のあらすじを引用する。


天才プログラマー・中島朱実は、コンピュータを使い"デジタル・デビル"を生み出してしまった。 古来、悪魔は特定の場所にしか出現できないという制約があったが、デジタル・デビルは、コンピュータのオンラインを利用して、 世界中のいかなる地点へも一瞬のうちに到達できるのだ。 自らが生んだ悪魔によって恋人・弓子を失った中島は、この恐るべき敵との戦いを決意する。 伝奇SFの大ヒットシリーズ、その第1弾!

※厳密には、弓子が死んだ時点で、中島とはまだ世間一般的な恋人関係に無い


以下、「デジタル・デビル・ストーリー」の内容を簡単に紹介する。


デジタル・デビル・ストーリー 女神転生

主人公・中島は、コンピュータと魔術理論の類似性を発見し、悪魔召還プログラムを作成した。
理論上、悪魔は出現する。確信はあったものの、実行に踏み切れなかった中島であったが、それは同級生への復讐という形で実施されてしまった。 実体化こそできなかったものの、悪魔ロキはクラスメイトへ集団催眠を掛け、殺害を以て復讐は成功する。悪魔召喚プログラムは確かに動いたのである。
時を置いて、中島と同じ十聖高校に転校してきた白鷺弓子は、中島に不思議な既視感を覚える。好奇心から中島に近づいた弓子であったが、悪魔ロキの力を恐れた中島は、そんな純真無垢な弓子すら生贄に捧げてしまう。
悪魔ロキと、ロキへの生贄と捧げた教諭の小原の策略により、ロキはついに実体化を果たす。我々のいる現世・アッシャー界への実体化を果たしたロキには、 もはや中島の存在は邪魔なものでしかなく、ついに命を狙われる中島と弓子。
絶体絶命の危機に陥った刹那。弓子の前世であるイザナミ神が助力し、弓子は神の力の一部を得て覚醒。命を賭してロキから逃げることに成功する。
イザナミの力により奈良の飛鳥へテレポートさせられた二人。そこで中島は、自身がイザナギの転生体であることを悟る。
ここ飛鳥の地にある、イザナミの墓にさえたどり着ければ、私は再び生きることができる。そう残しながら息絶える弓子。
前世で果たせなかった想い。そして何より、現世でも愛する女性を守ることができなかった自分への怒り。
そのために中島はロキと戦うことを決意し、炎の剣・ヒノカグツチの力を借りて見事ロキを撃破。弓子を蘇生させることに成功した。


デジタル・デビル・ストーリー2 魔都の戦士

悪魔ロキが倒されたという事実は、海を越えて、アメリカの地にまで伝わった。
マサチューセッツ州に拠点を構える黒魔術師イスマ・フィードは、人類初の「コンピュータによる悪魔召喚」を成し遂げたのが、日本の一学生であったことに衝撃を受ける。 イスマは単身日本に渡り、学内から悪魔召還プログラムを持ち出そうとしていた小原に接触。プログラムに改修を施すと、小原が偶然接触したというエジプトの悪神・セトとの契約に成功した。
最愛の悪魔ロキを殺された小原は、体内に悪魔の子を宿しながら、中島と弓子への復讐を決意する。 そして弓子の家族、中島の母親を虐殺して逃亡するが、追跡してきた弓子により殺害されると、腹が割れてアメーバが飛び出した。 アメーバは弓子の視界を毒液で奪い、現世と魔界を融合する手助けとなる「生体マグネタイト」を高濃度で保有する弓子を触媒として取り込むと、東京一帯にある森林、通称「蘇我の森」に陣取った。 偶然にも、これが悪魔セトを実体化させるための依り代として作用し、多数の人間が取り込まれて「肉の塔」を形成していった。セトの実体化はもはや時間の問題となった。
弓子を助けるため、そして自分の所業に決着をつけるため。中島は、イスマの実の兄である白魔術師チャールズ・フィードと、前世がツクヨミ神である特務捜査官・成川と協力してイスマに戦いを挑む。 成川の尊い犠牲によりイスマの撃破には成功したものの、セトの圧倒的な力には到底及ばない。
もはやセトの存在が人類の脅威になったことにより、日本政府は米国政府と協力。人工衛星に悪魔召喚プログラムをインストールし、宇宙空間にセトを放逐する計画を立てる。 中島は中島で、再びイザナミの墓へ赴き、宇宙空間でも自在に動けるイザナミの衣を手にする。
日本と米国の作戦は成功し、弓子を体内に取り込んだまま宇宙空間に放逐されるセト。弓子と中島の、体内と体外からの同時攻撃を受けて、ついにセトは撃破される。 だが、セトの体内には既に魔界と現世のつなぎ目が生まれており、その扉は弓子の身一つで塞がれている脆弱なものであった。
弓子の犠牲一つで、地球の悪魔出現を食い止めることができる。人類のため、このまま魔界に堕ちる私を放っておいてくれと懇願する弓子。
だが、しかし。中島は叫ぶ。
「五十億の人間より、ぼくは君一人を選ぶ!」
弓子を救い、地球に降り注ぐ悪魔達。抱き合いながら二人の体は青い星の空にあった。


デジタル・デビル・ストーリー3 転生の終焉

悪魔セトは倒されたものの、人的・経済的被害の爪痕は大きく、後に「大破壊」とよばれるまでになった未曽有の災害を経験した日本。 一連の動きを観察していた悪魔ルシファーは、現世へ関わろうとするイザナミを御しながら、現世降臨のための地固めを着々と行っていった。
もはや悪魔の存在は一般人にも知られるところとなり、その不安は、悪魔退散を目的として生まれた組織「セイレーン教団」の拡大につながっていく。
一方、成り行きとはいえ、地上に悪魔を出現させる一因を作った中島は、チャールズの庇護下で、弓子と一緒に国際サマルカンド病院に身を寄せていた。 視力を失った弓子を見舞う中島は、悪魔ラルヴァの精神攻撃により、徐々に精神を蝕まれていく。
このセイレーン教団とラルヴァの動きこそ、ルシファーの策略の一つであった。 政治面にも策略を張り巡らしていたルシファーは、悪魔を使役した人間を死刑にする法案「対悪魔国家防衛法」を成立させる。
徐々に追い詰められていく中島の身を案じる弓子。夢の暗示でイザナミの危機を察したことで、二人は再びイザナミの墓へ向かうことを決意する。
イザナミの墓へ向かう二人の前に、セイレーン教団の群集が現れると、弓子は群集の前に引き出され、暴力と罵倒を受ける。 激高した中島は、弓子を侮辱した信者の首をヒノカグツチの剣で刎ねると、苦悩する弓子に制止され、なすすべなく逮捕されてしまうのだった。
先の「対悪魔国家防衛法」により死刑が求刑された中島。
そして、中島の公開処刑を命じたルシファーは、いよいよ現世への降臨を果たそうとしていた。



ここまでが、「デジタル・デビル・ストーリー」の大まかなストーリーである。
「転生の終焉」の最後は記述していない。 ここまで熟読してくれた方には申し訳ないが、気になった方は是非、書籍版を手に取って読んでみてほしい。


話が少々脱線するが、インターネット上には、ゲーム「真・女神転生if...」の登場人物・狭間偉出夫との引き合いに出されて
「中島はいじめられた」
といった表現が散見されるが、これは正しくない。
OVAを紹介する某書籍では「スクールカーストの底辺にいた中島朱実」という記述もあるが、これも大きな間違いである。
中島朱実はその美貌から女子生徒には好意を寄せられており、男子生徒から距離を置かれていたといった事実もない。小説内を見ても、OVAを視聴しても、カーストの底辺だったという記述も表現もない。
中島が復讐に走ったのは、彼に好意を寄せていた高見沢京子が、振られた腹いせに近藤弘之を焚きつけ、中島に理不尽な暴力を加えたことが発端である。



続編「新デジタル・デビル・ストーリー」も存在するが、全6巻の長編のため、ここでは第1巻「捕らわれの女神」のあらすじだけ引用で紹介する。


199X年、近未来の東京は、環境汚染のまったくない社会ができあがっていた。だがそこは魔族ルシファーによって事実上支配され、 特別区と呼ばれる新宿東口周辺は魔族により無法地帯と化していた。 人間が獣のように扱われているというこの特別区に、北明日香は同級生の木戸礼子や神父とともに潜入する。一方、大和の神・白鷺弓子は、この魔都に転生復活を果たしていた・・・・・・。 好評伝奇SFシリーズ、ここに新たにスタート!

02書籍情報

アニメージュ文庫刊
DDS第一作「女神転生」

前述の通り、DDSは徳間書店のアニメージュ文庫から発売され、

「デジタル・デビル・ストーリー」シリーズ全3巻
「新・デジタル・デビル・ストーリー」シリーズ全6巻


の全9巻で構成されている。
ゲームとして有名になっている「女神転生」「真・女神転生」とは、このシリーズ1作目のサブタイトルが由来しており、有名になって以降は「メガテン」の愛称で呼ばれるようになった。
小説発表当時は一部で、中高生向けの小説を差して「ジュブナイル小説」などとも呼ばれたが、これは今でいうところの「ライトノベル」といったところか。


メガテンαのサービス
「デジタルノベル」から
「女神転生」実際の画面
メガテンαのサービス
「デジタルノベル」から
「女神転生」実際の画面

そのアニメージュ文庫は、一部ジブリ作品を除いて、ほぼ実質刊行を停止しており、DDSもしばらく憂き目にあっていた。
その後、株式会社アトラスが運営していた、モバイル系コンテンツ「メガテンα」内で、西谷史氏自身の加筆修正が加えられた上で電子書籍化が行われると、復刊ドットコムのサービスから復刊も決定。 株式会社復刊ドットコム(旧:株式会社ブッキング)から愛蔵版として見事、復活を果たしたのだった。
「メガテンα」も既にサービスを停止しており、これを執筆している2023年現在、電子書籍は存在しない。
現在は市場流通分の愛蔵版、およびアニメージュ文庫版でのみ閲読可能である。


なお、愛蔵版になってからは、加筆修正に加えて、アニメージュ文庫版が3冊単位でまとめられることになった。
その際、各巻のタイトルも「デジタル・デビル・ストーリー」シリーズから「デジタル・デビル・ストーリー 女神転生」シリーズとなった。
旧アニメージュ文庫版と愛蔵版のナンバリング対比表は以下の通り。


アニメージュ文庫版(右は参考用の英名) 愛蔵版
デジタル・デビル・ストーリー 女神転生
Megami Tensei デジタル・デビル・ストーリー 女神転生1
デジタル・デビル・ストーリー2 魔都の戦士 Warrior of the Devil City
デジタル・デビル・ストーリー3 転生の終焉 Demise of the Reincarnation
新デジタル・デビル・ストーリー 捕らわれの女神 Goddess of Enchainment デジタル・デビル・ストーリー 女神転生2
新デジタル・デビル・ストーリー2 氷界の女王 Queen of the Ice Fields
新デジタル・デビル・ストーリー3 神魔の惑星 Planet of the Devil
新デジタル・デビル・ストーリー4 怒りの妖帝 Wrath of the ghost emperor デジタル・デビル・ストーリー 女神転生3
新デジタル・デビル・ストーリー5 女神よ永遠に Eternal Goddess
新デジタル・デビル・ストーリー6 転生の絆 Bond of Reincarnation



アニメージュ1986年3月号にて出された、DDSの広告

03DDSが生まれるまで

デジタル・デビル・ストーリー(以下、DDS)が生まれる発端は、西谷史氏が当時交流のあった任天堂と、大学生数人を交えてやりとりした事に起因する。
1980年代当時、西谷氏は、ウルティマなどの西洋ファンタジーがヒットしていることに着眼し、作家的な観点として
「日本的な要素を取り入れたゲームはどうか」
という一意見を伝える(この頃に女神転生のゲームの構想があったわけではない)。
その際、任天堂側から
「原作小説を書いてみたら」
という意見を貰ったことが、DDSを執筆する動機となった。(※1.)

※1.西谷氏より直接伺った内容


「暗殺獣」が収録されている、
西谷史著「2020年ホログラフ元年」
一方で、DDS第一作「女神転生」が発表される前年の1985年。
西谷氏はパソコン雑誌「Oh!PC」にて、 近未来をテーマにしたショートショートSFを連載していた。
(この連載時期と、前述の任天堂との意見のやり取りの時系列は不明)
その中に、DDSの話を彷彿させる「暗殺獣」「魔術」などの小説がいくつか発表されていた。 それらのショートショートSFは、後に「2020年ホログラフ元年」というタイトルで書籍化されている。


この連載小説は、当時「うる星やつら」のアニメプロデューサーの1人であった井上尭男氏の目に留まった。 井上氏は「アニメージュでも何か書けないか」ということで、スタジオ・ジブリで有名な鈴木敏夫氏に西谷氏を紹介。 そこから同じくアニメージュ編集部の高橋望氏が担当となり、企画がどんどん進み、 1986年3月、晴れてここで「デジタル・デビル・ストーリー」が生まれたのであった。(※2.)

※2.スタジオジブリ配布小冊子「熱風」2023年1月号より

「デジタル・デビル・ストーリー」が発表されたアニメージュ文庫では、 当時、徳間書店局長であった尾形英夫氏の方針もあって、人気アニメーターを起用するというものがあった。 そこで、「機動戦士Zガンダム」の作画監督してめきめき頭角を現していた、北爪宏幸氏に白羽の矢が立った。
以後、西谷史氏と北爪宏幸氏のコンビ作品はDDSだけに留まらず、その他数作品を発表している。

DDSと同じく、西谷史&北爪宏幸コンビで発売された小説